いわゆる同一労働同一賃金が本格的にスタートしました。
これにより、気になるのが「非正規社員への賞与の支払い」についてです。
判断が難しいポイントだからこそ、基本的な考え方や過去の判例について知っておきましょう。
同一労働同一賃金の基本から、非正規社員への賞与の支払いについて、身につけておくべき知識をまとめます。
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同一労働同一賃金の適用開始!いつから非正規社員への賞与が必要に
同一労働同一賃金は、2020年4月からスタートしています。
ただし、この時期に対象になったのは、大企業のみ。
中小企業は1年おくれ、つまり2021年4月からの実施が義務付けられています。
同一労働同一賃金は、働き方改革関連法の一つとして実施されるもので、正規社員と非正規社員の待遇格差解消を目指しています。
2021年4月からは、日本のすべての企業が義務化の対象になりました。
正しい知識を基に、適切に対処しなければ、訴訟や損害賠償請求リスクを負うことになります。
同一労働同一賃金でまず注目されるのは、毎月の給料の内、資格手当や通勤手当等の諸手当ですが、賞与についても注意が必要です。
- 正規社員には賞与を支払っているが、パート・アルバイト・派遣社員に対しては支払っていない
- フルタイムの非正規社員(有期契約)に対する賞与は、あくまでも少額の「寸志」のみ
こうした企業は、賞与についても適切に対処する必要があります。
2021年4月から中小企業にも同一労働同一賃金が義務化されたため、賞与の目的、対象非正規社員の職務内容・貢献度により、この時期から、非正規社員にも場合によっては、賞与の支払いが必要となります。
同一労働同一賃金ガイドラインに見る、賞与の考え方
同一労働同一賃金において、賞与の考え方は以下のように示されています。
『ボーナス(賞与)であって、会社の業績等への労働者の貢献に応じて支給するものについては、同一の貢献には同一の、違いがあれば違いに応じた支給を行わなければならない』(※出典:厚生労働省「同一労働同一賃金ガイドライン」より)
少し難しい内容ですが、職務内容や責任の度合いが同じであれば、雇用形態にかかわらず、同一の賞与を支払う必要があると定められています。
一方で、職務内容や責任の度合いに違いがあれば、賞与の支払いについても、違いに応じた支給が可能になります。
企業にとって難しいのは、どこまでを「同一」とみなし、対応していくのか?という点です。
2020年から大企業で同一労働同一賃金がスタートしたことによって、日本各地で複数の訴訟が起こされています。
2020年10月13日には、最高裁で「非正規に賞与を支給しなくても不合理とは認められない」という判決が出ました。
企業としては、「やはり支給しなくても良い」と判断しがちな判決ですが、ここには非常に大きなリスクが潜んでいます。
過去の判例をもとに企業としての正しい対処法を学んでいきましょう。
最高裁の判例に見る、賞与不支給が許容されるポイント
2020年10月13日に、「非正規に賞与を支給しなくても不合理とは認められない」という判決が出たのは、「大阪医科薬科大学事件」においてです。(※出典:裁判所 裁判例結果詳細より)
原告は、フルタイムで働く有期雇用契約のアルバイト職員で、主な争点は「正規職員とアルバイト職員の間の賞与支払い格差」についてでした。
実はこの事件、最高裁では「不合理とは認められない」という判決が出ていますが、第1審〜最高裁まで、その内容は二転三転しています。
最高裁で「不合理ではない」と判断されたポイントは、「正規職員とアルバイト職員が担っていた職務内容・責任の程度の違い」にありました。
もともと同一労働同一賃金においては、職務内容や責任の度合いが同じであれば、同一の賞与を支払うように義務付けられています。
最高裁は、以下のようなポイントで、正規職員とアルバイト職員の間に差があったことを認めています。
ポイント①:業務の違い
正規職員とアルバイト職員が行う業務には、一部重なる部分もあったが、正規職員はより幅広い業務を担当していた。
ポイント②:責任の度合い
正規職員は、各種管理業務や遺族対応、アルバイト管理など、責任の重い仕事を任されていた。
一方でアルバイト職員が担当する業務の多くは、定型的で簡便な作業であった。
ポイント③:転勤の有無
正規職員は、就業規則上、人事異動を命ぜられる可能性があった。
一方でアルバイト職員については、原則として配置転換はなし。
人事異動は、例外的かつ個別的な事情によってのみ行われていた。
また、以下の点も考慮されました。
- アルバイト職員は、契約職員および正規職員へ段階的に職種を変更するための試験による登用制度が設けられていた。
→ アルバイト職員の地位は、固定されたものではなかった。 - アルバイト職員の更新による雇用上限は5年に定められていた。
→ 原告は、フルタイムで2年程度働いていたが、正社員と同等の立場とはみなされない。
当裁判においては、2審で「賞与は就労への対価として支払われているもの」と判断され、「アルバイト職員に対する不支給は不合理」という判決が出された経緯がありました。
「就労」しているのは、正規職員もアルバイト職員も同じだからです。
一方で最高裁の判決によると、「賞与は、正規職員としての職務を遂行し得る人材の確保やその定着を図るなどの目的に支払われていた」と、賞与の目的についても、より詳しく判断されています。
賞与は、「就労」そのものへの対価で支払われているわけではなく、正規職員の職務遂行能力に応じて、長期雇用を促す目的で支給されているため、「アルバイト職員に対する不支給は、不合理とは認められない」という判決につながっています。
賞与不支給が不合理ではないと判断されるポイントは、多岐にわたります。
もし実際に裁判になれば、一つひとつの事例について、業務内容や責任、賞与の目的など、さまざまな項目を複合的に判断されることになるでしょう。
今回取り上げた「大阪医科薬科大学事件」以外にも同一労働同一賃金に関連する主な判例として「メトロコマース事件」、「日本郵政(東京、大阪、佐賀)の3事件」や「長澤運輸事件」があります。これらの判例が実際のケースにすべて該当するわけではありません。
あくまでも、個別のケースとして捉えた場合の判断なので、油断は禁物です。
企業が対応すべきポイント:正規社員との格差に合理的な理由を準備する
同一労働同一賃金の賞与の支払いについて、余計なリスクを負わないためには、事前準備が重要です。
正規社員と非正規社員が同一の業務を行い、同等の責任を負っていると認められる場合には、格差是正のための具体的な取り組みをスタートさせましょう。
一方で、担当業務や責任の程度に差がある場合も、注意する必要があります。
大切なのは、正規社員との格差について、合理的な説明ができることです。
同一労働同一賃金においては、非正規社員は事業主に対して、「正社員との待遇差の内容や理由の開示」を求める権利を認めています。
もし労働者側から訴えがあった場合、事業主側は求めに応じる義務があります。
まずは正規社員と非正規社員、それぞれが担当する業務内容や責任の程度について、できるだけ詳しく調査しましょう。
両者の違いが明らかになれば、賞与の金額差についても合理的な説明が可能です。
また、賞与の支払い基準についても明確化しておきましょう。
具体的にどのような目的で、何を基準に支給しているのかがわかれば、待遇差が生じる場合でも訴訟リスクを低減できます。
まとめ
2021年4月より、中小企業も含め、いわゆる同一労働同一賃金が本格的にスタートしました。
「職務内容、責任の程度が同じであれば賞与を支給すべき」というのが、その基本的な内容です。
しかし、どこをどう判断すれば良いのか、また、いつから対応するべきなのか、悩む企業も多いのではないでしょうか。
賞与支払いを含む賃金に関する訴訟は、今後も増加すると思われます。
万が一集団訴訟で非正規社員側の言い分が認められれば、企業側は、多額の損害賠償金を支払うことになるでしょう。
とはいえ、過去の判決が二転三転している点からもわかるとおり、賞与の支払いに関するルールには、曖昧な点も多くあります。
法律に関する知識を持たないまま、賞与支給・不支給を決定するのは非常に難しいと言えるでしょう。
支給・不支給の決定および不支給の場合の合理的な説明については、プロである社会保険労務士にご相談ください。
それぞれの企業の実情に合わせて、最適なアドバイスをいたします。
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