日本の労働人口の減少に伴い、「働き手をどう確保していくのか」という点は、全産業にとって共通の課題だと言えるでしょう。
これまでも人手不足が指摘されてきた介護業界においては、特に重要な問題です。
今回のコラムでは、介護業界が人手不足に悩まされる理由と共に、問題解決への道筋を探っていきます。
働き手を確保するための、コツについて学んでいきましょう。
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介護業界の現状
介護業界の人手不足問題は、昔から指摘されている課題の一つです。
1人でも多くの働き手を確保するため、国もさまざまな対策を行っています。
しかし現状では、課題が解決したとは言い難い状況が継続しています。
2020年8月に公益財団法人 介護労働安定センターが発表した資料によると、介護サービスに従事する従業員の中で、人材不足感を抱いている人の割合は65.3%。
不足感を訴える人の割合は、年々増加傾向にあります。
人材が不足している理由としては、「採用が困難である」を挙げた方がもっとも多く、90.0%という結果になりました。
介護の世界の人手不足は、業界全体が抱える問題の一つです。
限られた人材を、同業者同士で取り合っているという現状があります。
介護事業所単位で人手不足問題を解消するなら、「同業他社よりも魅力的な仕事環境」を用意できるかどうかが鍵となります。
そのために欠かせないのが、業務改善に向けた各種取り組みです。
「業務は大変でも、なんとか回っているから」という理由で、つい後回しにしてしまいがちですが、これでは何も変わらないでしょう。
業務を改善できれば、介護業務にまつわる雑務に、時間を取られるリスクが低下します。
一人ひとりの業務内容が明確化されていれば、「あれもこれもやらなければ…」というような、負担感も軽減するはずです。
余裕を持って仕事ができるようになれば、心理的負担は少なくなるでしょう。
スタッフが限られているときでも、業務を効率的に回せるようになり、労働環境が是正されれば求人者数もアップするはずです。
人手不足問題を解決するため、まずは現状の職場に潜んでいる「働きにくさ」を解決していきましょう。
介護業界が業務改善に取り組むポイント
業務改善の重要性がわかったところで、気になるのが「具体的にどういった取り組みをすれば良いのか?」という点です。
意義や内容を理解した上で、適切な手順で改善に向けた取り組みを行いましょう。
ポイント①:業務改善の意義
まず重要なのは、業務改善の意義を知り、関わる人全員で共有するという点です。
一般的な業務改善とは、限られた人材をできるだけ有効に活用するためのもの。
そこには、「業界で働く人々の負担を和らげる」という目標があります。
しかし、介護業界における業務改善には、「携わる人の負担を軽減し、介護の質の向上につなげる」という非常に大きな意義があります。
業務改善によって、働き手の負担が軽減すれば、介護業界で働く人の増加や離職率の低下を見込めるでしょう。
長く働く人が増えれば、介護サービスの質の向上につなげていけます。
ポイント②:業務改善の内容
業務改善の内容として、以下の7項目が考えられます。
- 職場環境の整備
- 業務の明確化と役割分担
- 手順書の作成
- 記録や報告様式の工夫
- 情報共有の工夫
- OJTの仕組みづくり
- 理念や行動指針の徹底
整理・整頓された職場を維持することも、立派な業務改善の一つです。
日々の業務で手一杯の中、「手順書を作成したり、OJTの仕組みを作ったりするのは難しい」と感じる方もいるかもしれません。
しかし、経験が浅いスタッフでも安心して働ける環境を作ることも、非常に重要なポイントとなるでしょう。
ポイント③:業務改善の手順
業務改善に向けた手順は、以下を参考にしてみてください。
1.準備(プロジェクトリーダーの選出、外部の研修会へ参加など)
2.課題の見える化(課題分析、業務時間分析など)
3.実行計画の立案(解決に向けた道筋の提示、ゴールの共有など)
4.取り組みスタート
5.取り組み内容の振り返り(うまくいった点、いかなかった点の共有と分析)
6.計画の再立案
計画を立てたら、実行、振り返り、再立案、実行…という形で繰り返していきます。
やりっぱなしにならないように注意しましょう。
介護業界での業務改善事例
介護業界における、業務改善事例を2つ紹介します。
何をどうすれば業務改善につながるのか、また業務改善が進むとどのような変化が起きるのかについて、身近に感じてみてください。
事例①:道具を工夫して安全確保
サービス付き高齢者住宅を経営しているJALUXトラスト株式会社では、入居者の服薬介助の際に、取り違えが起きないよう、5重のチェック体制を敷いていました。
しかし実際には、5重のチェックを行っていても、取り違えミスが発生してしまいました。
業務を改善するために、JALUXトラスト株式会社では、入居者それぞれの薬を入れるための、持ち運び可能な容器を導入。
ふたを開けたところには、入居者それぞれの写真を貼り付けました。
文字情報だけではなく、視覚情報も併せて確認することで、ミスが発生しづらい環境を作りだしたのです。
道具に工夫することで、これまで5回チェックしていた体制を、3回にまで軽減。
服薬時に、入居者と一緒に最終チェックを行うことで、業務効率改善と共に、ミスが発生しづらい環境整備を行いました。
参考:
株式会社エヌ・ティ・ティ・データ経営研究所「事前報告会 介護サービス事業の生産性向上に向けた調査事業」
事例②:記録様式の見直し
24人の職員で業務を回す、複合型サービスゆいまーる。
現場でヒアリング調査を行ったところ、以下の課題が共有されました。
- 多職種との連携ができていない、記録に時間がかかっている
- 業務における何らかの企画・提案を行いたいが、文書化ができない
どちらも、当時現場で使われていた書類の使い勝手が悪いことが原因で発生した課題でした。
記録に時間がかかってしまうのは、手書きで対応しなければならない部分が多かったため。
企画・提案のために使われていた行動計画書は、記載内容がわかりにくく、実施内容をイメージしづらいという問題を抱えていました。
特に、日々の記録にかかる時間は大きな問題となっており、記録時間が1時間以上かかってしまう日も目立ちました。
そこで、手書き方式の書類から、チェック方式の書類へと変更。
該当する部分にチェックを入れるだけで情報を共有できるようになったため、記録時間の大幅な短縮につながりました。
行事計画表についても、より具体的でイメージが湧きやすい書式を採用。
これらの変更により、日々の業務負担を軽減すると共に、介護の仕事をする方が、自らの考え・計画を伝えやすい環境を実現しました。
参考:
平成30年度 大分県委託事業 介護サービスクオリティ向上事業「介護事業所の介護サービスの質の向上となる業務効率化への取組について」
まとめ
人手不足が深刻な介護業界だからこそ、業務改善は避けられない課題です。
業務改善によって働き手の負担を減らすことが、より多くの介護従事者を獲得するためのポイントとなるでしょう。
業務改善の具体的な内容は、どれも決して大げさなものではありません。
たとえば、「身の回りの道具を常に使いやすいよう整えておく」「清潔な環境を維持する」だけでも、業務中に探し物をする時間を短縮できるでしょう。
「業務改善しなければ」と構え過ぎる必要はありませんから、まずは現場で抱えている課題を見える化し、スタッフ全員で共有しましょう。
課題を一つひとつ解決していく中で、業務全体の流れも、自然と改善されていくはずです。
業務改善の重要なポイントは、「実行と振り返りのプロセスを止めない」ということです。
小さな課題も見逃さず、より働きやすい環境を目指してみてください。