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【社労士監修】正しい残業代の計算方法を雇用形態別に解説
残業代 計算方法

労働者が所定労働時間を超えて働いた場合に支払われるのが、残業代です。
残業代の計算方法は非常にシンプルなのですが、雇用形態が複雑化している今では、計算ミスが発生しやすくなっています。
残業の種類と計算方法、割増率といった基本的な知識から、雇用形態別の具体的な残業代算出方法を紹介します。
計算ミスよって罰則を科せられたり、未払い残業代の請求を受けたりすることがないよう、改めてチェックしておきましょう。

 

残業の種類

残業の種類

残業代について知るためには、まず残業の種類について確認しておきましょう。
残業は以下の2つに分けられます。

 

種類①:法定内残業

法定内残業とは「労働基準法で定められた労働時間の範囲内で行われた残業」のことを言います。
これだけですと少しわかりにくいと思いますので説明しますと、労働基準法で定められた労働時間とは、「1日8時間まで」「1週40時間まで」を指します。
ただし、すべての労働者が、この範囲いっぱいまで仕事をしているわけではありません。

企業との契約によっては「1日7時間、1週35時間」というケースもあるでしょう。
この場合、契約に定められた所定労働時間よりも1日1時間多く働けば「残業」になりますが、労働基準法で定められた範囲を超えてはいません。
この残業を「法定内残業」と言います。

同様に「1日7時間、1週35時間」の契約で働く人が「1日1時間、週に5時間」の残業をした場合も、法定内残業です。
法定内残業に対しても、残業代は支払われます。

 

種類②:法定外残業

一方で、「労働基準法で定められた労働時間を超えて行われた残業」のことを、法定外残業(時間外労働)と言います。
事前に労使協定を結んでいれば、その協定内容に沿う形で、法定労働時間外に働くことが可能に。
この場合、企業側は労働者に対して、「割増賃金」を支払う必要があります。

「1日7時間、1週35時間」の契約で働く人が「1日2時間、週に10時間」の残業をした場合、1日あたり1時間は法定内残業ですが、もう1時間は法定外残業です。
割増賃金の支払い義務があるのは法定外残業に対してのみ。
このため、残業代の計算方法が複雑化します。

 

基本的な残業代の計算方法

基本的な残業代は、以下の計算式で求められます。

【1時間あたりの賃金額】×【残業した時間】×【割増賃金率】

1時間あたりの賃金額は、1か月当たりの基礎賃金を1か月の所定労働時間で割れば求められます。
残業が法定内残業のみであれば、これに残業時間を掛け合わせることで残業代を求められます。
残業時間内に法定外残業が含まれている場合や、残業=法定外残業の場合には、さらに割増賃金率を掛け合わせて求めます。

 

残業代の割増率

残業代 計算

残業代の計算のポイントは、「割増賃金率」です。
割増賃金率は、労働基準法で以下のように定められています。

 

法定外残業(時間外労働)

法定外残業の割増率は、原則として賃金の1.25倍です。
ただし法定外残業時間が月60時間を超えた場合、その超えた部分については割増率が1.5倍に上昇します(但し、中小企業については、2023年3月31日まで適用が猶予されています。)。

 

法定休日労働

1週1日または4週4日の法定休日に、従業員に仕事をさせた場合にも、割増賃金率が適用されます。
こちらは賃金の1.35倍です。

 

深夜労働

午後10時から翌日の午前5時という深夜の時間帯に仕事をさせた場合の、割増賃金率は1.25倍です。
ただし、深夜労働かつ法定外残業であった場合、割増賃金率は1.5倍になります。

企業によっては、就業規則によって労働基準法を超える割増率が定められているケースもあります。
この場合、企業のルールのほうが優先されますから、まずは一度「就業規則」を確認してみましょう。

 

残業代算出に含む手当・含まない手当

残業代 手当

残業代を計算する際に、気になるのが各種手当についてです。
残業代計算の基礎となる賃金に含むものと含まないものがあるので、以下を参考にチェックしてみてください。

 

含む手当

残業代算出の基礎となる賃金に含む手当とは、以下のような「労働と深く関わっていると思われる手当」だけでなく、以下の「含まない手当(除外できる)手当以外すべての手当を含める必要があります。
具体的には以下のような手当が当てはまります。

  • 役職手当
  • 資格手当
  • 地域手当
  • 皆勤手当

 

含まない(除外できる)手当

一方で、以下のような「労働との関連性が薄いと思われる手当」「変動的支払われる手当」は、残業代算出に含めません。

  • 家族手当
  • 通勤手当
  • 別居手当
  • 子女教育手当
  • 住宅手当
  • 臨時に支給された賃金 など

 

「含まない手当」に該当する手当を支給している場合、残業代の算出からは除外できます。
ただし、「家族の人数にかかわらず、一律に支給している家族手当」や「通勤距離にかかわらず、一律に支給されている通勤手当」など、除外できないケースもあります。
支給の実態に基づいて、ケースごとに判断しましょう。

 

雇用形態別の残業代算出方法

残業代 雇用形態別

さまざまな雇用形態が生まれている現代。
それに伴って残業代の算出方法も複雑化しています。
「どう計算すれば良いのだろう」と悩んだときは、以下の雇用形態別算出方法をチェックしてみてください。

 

みなし残業制①(固定残業制度)

固定残業制度とは、毎月の残業代を正確に計算せず、あらかじめ決められた時間で計算された「固定残業手当」「みなし残業手当」という一定額を毎月支払う制度です。
毎月一定金額の残業手当を基本給に加算して支払う方法なので、会社にとっては、給与計算の手間を省くことができ、従業員にとっては、給与を安定してもらえるというメリットがあります。
この場合に、みなし(固定)残業手当さえ払えば、「どれだけ残業させても、追加の残業代を払う必要がない」と思っている方がいるかもしれませんが、これは大きな誤りです。

みなし(固定)残業手当を支払っている場合でも、実際に残業した時間から算出した残業手当がみなし(固定)残業手当よりも多い場合、差額を支払う必要があります。
例えば、みなし(固定)残業手当で毎月20時間分を払っている場合、その月の残業が20時間を超えたときだけ、その超過分を差額残業代として支払うことになります。

 

みなし残業制②(みなし労働時間制)

こちらのみなし残業制は、労働基準法第38条で定められたもので、特別な労働環境または特別な職務に従事する労働者にのみ適用される雇用形態です。みなし労働時間制には、事業場外みなし労働時間制と裁量労働制の2種類があります。

事業場外みなし労働時間制は、労働者が通常の勤務として会社外や出張などで労働し、その業務に関する労働時間の算定が難しい従業員のみ対象に、所定労働時間または労使協定で定めた時間を働いたとみなす制度です。

この制度を導入した場合で、残業をする必要があると認められる場合には、「残業を含んだ労働時間」である「通常必要時間」を働いたとみなされます。この「通常必要時間」は過半数代表労働者等との労使協定により定められます。

裁量労働制とは、業務の性質上、業務を遂行するための方法を大幅に労働者の裁量に委ねざるを得ない業務を対象に、労使の合意で定めた労働時間を働いたとみなす制度です。
裁量労働制には専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制があり、特定の専門性が高い業務(デザイナーや公認会計士など)や事業の運営に関する企画や立案などをする業務に限定されています。

労働基準法第38条で定められたこれらのみなし労働時間制の場合、事前に業務に必要な残業も含んだ労働時間を算出して労働したとみなす制度であるため、実際の業務で残業をする、しないに関わらず、みなし労働時間で給与を計算します。ただし深夜労働と休日出勤については、その他の雇用形態と同様に割増賃金が発生しますので注意が必要です。

 

フレックスタイム制

フレックスタイム制は、1か月などの単位(清算)期間の総労働時間(所定労働時間)を定め、その範囲内で労働者が日々の出勤時間(始業時刻)と退勤時間(終業時刻)を決めることができる制度です。
決められているのが単位(清算)期間の総労働時間であるため、フレックスタイム制において「1日当たりの残業時間」が計算されることはありません。

ただし、だからといって、「残業代を支払わなくても良い」というわけではありません。
残業代は、1日や1週間ごとに計算されるのではなく、あらかじめ定められた1か月などの単位(清算)期間ごとに、総労働時間(所定労働時間)を超えて働いた時間に対しては、残業代を計算し、支払う必要があります。
残業を計算する期間は異なりますが、使われる計算式は、一般的な雇用形態と同じ「残業代=残業時間×1時間当たりの基礎賃金×割増率」です。

 

変形労働時間制

変形労働時間制には、一般的に「1か月単位の変形労働時間制」と「1年単位の変形労働時間制」があり、その単位期間内の1週間当たりの平均所定労働時間が法定労働時間の週40時間を超えない場合、所定労働として、1日8時間を超えて、または1週間に40時間を超えて労働させることができるという制度です。

1か月単位の変形労働時間制は、飲食店、医療機関や介護事業所のように休日が不定期の場合や勤務時間が不規則なため、毎月シフト表で勤務を決める事業所で導入している場合が多いようです。1年単位の変形労働時間制は、1年の内繁忙期と閑散期が明確な事業所で導入されている場合が多いようです。

1か月単位の変形労働時間制の場合、対象月の初日までにあらかじめ所定の勤務シフト表等を定めることにより、1日に8時間を超えて(例えば10時間)、1週間に40時間を超えて(例えば48時間)勤務をしても、所定勤務内であれば残業手当を払う必要がありません。1年単位の変形労働時間制の場合、年間カレンダーを作成し、所定労働日、労働時間を事前に決定することにより、法定労働時間を超えて勤務可能ですが、1年あたり労働日数は280日(年間休日85日)、労働時間については1日あたり10時間、1週間あたり52時間の限度があります。

変形労働時間制で所定労働時間を決める場合に気を付けなければならないルールがあります。所定労働時間の上限を40時間(法定労働時間)×暦日数÷7で計算しますので、1か月単位の場合、所定労働時間は、28日の月で160.0時間、29日で165.71時間、30日で171.42時間、31日で177.14時間の範囲で所定労働時間を定める必要があります。また、1年単位の場合、365日の年で2085.7時間、366日(閏年)の年で2091.4時間の範囲で所定労働時間を定める必要があります。

変形労働時間制の場合、上記のルールに従って所定労働時間を定めた場合、所定労働時間内の勤務であれば、残業手当を払う必要はありません。ただし、所定労働時間を超える場合の残業代の計算は少し複雑になります。1日については、8時間を超え、かつ、所定時間を超えた時間、1週間については、40時間を超え、かつ所定労働時間を超えた時間を毎月残業代として計算します。さらに、1か月単位の場合は、その月ごと、1年単位の場合は、1年間の上記法定労働時間の総枠を超えた労働時間を残業代として計算し、支払うことになります。

管理職

以下の3つの要件を満たす「管理監督者」として認められる場合、残業代は支給されません。

  • 経営者から、経営や人事、管理などに関する一定の権限を与えられている
  • 役職に見合った待遇を受けている
  • 自己裁量によって、自身の労働時間を管理できる

たとえ管理職であっても、労働基準法における「管理監督者」に該当するかによって、残業代が支払われるか否かが決まります。これらの要件を満たさない場合は、一般的な従業員と同様の手順で残業代が算定されます。

 

日給制

雇用契約書に1日いくらと記載されているため、日給制の場合、日当を払えば残業は不要と思っている事業主の方もいらっしゃるかもしれません。日給制であっても、1日の所定労働時間を超えれば、残業代は発生します。
1日の労働時間が8時間を超える場合、1日の所定労働時間と所定賃金、また、日給に何時間分の残業代が含まれているか明確にしておきましょう。日給制の場合にも、所定労働時間を超えて働いた分を残業時間とみなし、一般的なケースと同様に残業代を計算して支給する必要があります。

 

年俸制

年俸制の場合も、残業代は発生します。
実際の労働時間が法定労働時間(1日8時間、1週40時間)を超えた場合、その時間が残業時間です。

契約年俸にあらかじめ固定残業代が含まれているケースもありますが、この場合の考え方はみなし残業制と同じです。
契約で定められた残業時間を超えて働いた場合のみ、残業代を上乗せして支払う必要があります。

 

まとめ

残業代の計算方法は、非常に複雑です。
実際に「残業代は支払っているものの、その計算方法にミスが発生している」というケースが少なくありません。

近年、関連する諸法令の改正が立て続けに行われているため、企業には早急な対応が求められています。
残業代に関する運用方法を誤れば、将来的に、多額の残業代請求を受ける可能性があります。
確かな運用をしていくためには、社労士のサポートが必須です。

残業代の制度構築と運用をサポートいたしますので、まずはお問い合わせください。

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