社員がうつ病を患った際に、会社としてどう対応するべきなのか、悩む方も多いのではないでしょうか。
極めてデリケートな問題だからこそ、正しい知識を身に付け、適切に対処することが大切です。
うつ病への社員への接し方と共に、訴訟リスクを抱えないための基礎知識を解説します。
「うつ病の社員を解雇したい」「辞めさせたい」と考えている方も、ぜひ参考にしてみてください。
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うつ病の社員への接し方とは
メンタルヘルスに関わる問題は、現代を生きる私たちにとって、決して他人事ではありません。
特にうつ病は、近年非常に多く増えている問題でもあります。
外見上はその重大さを判断しづらい病だからこそ、適切な知識を持って、接し方にも工夫する必要があるでしょう。
うつ病を患う社員や、「もしかしてうつ病なのでは?」と思う社員を見つけたら、以下の3つのポイントを意識してみてください。
励ましすぎない
うつ病を患っている方や、うつ状態になりかけている方には、以下のような症状が現れやすくなります。
- 気分が落ち込む
- 仕事に対する意欲や集中力が低下する
- 仕事でミスが増える
これまで問題なく仕事をしていた社員に、突然このような特徴が目立ち始めたら、相手を励ますつもりで「もっとがんばれ」「君ならできるはず」などと、声を掛けてしまう機会があるかもしれません。
しかし、うつ状態にある人に対して、過度な励ましは逆効果であるとわかっています。
そもそもうつ病は、生真面目で完璧主義な性格の人がなりやすい病だと言われています。
周囲からの励ましによって、さらに自分の心を追い詰めてしまう可能性もあるでしょう。
業務量を調整し、適度に休息を与える
うつ病を患っている社員に必要なのは、適度な休息です。
業務が集中している場合は分散させて、適度に休息を取れるようにしましょう。
適切な対処を怠ると、後々、訴訟リスクを抱えることにもなりかねません。
また、業務量を減らし過ぎるのも危険です。
仕事量を減らし過ぎると、当該社員が職場での居場所を失ってしまう可能性も。
「やっぱり自分は駄目なんだ」という考えから、かえって症状が悪化してしまう恐れがあります。
判断が難しい場合は、専門医の意見を参考にしましょう。
会社が勝手に判断するのは危険です。
相談がある際には真剣に応じる
会社側には、従業員に対して安全配慮義務があります。
うつ病を患っている社員への対応は難しいものの、放置するのはやめましょう。
相談を持ち掛けられた場合は、真摯に耳を傾け、必要な対策を講じてください。
社員が相談を持ち掛けても真剣に対応しなかった場合、社員側には不信感が芽生えてしまいます。
うつ病の社員が無理に出社を続ける場合の対応
うつ病の度合いは人それぞれ異なるもので、「適切な対処法」というのも、個々で違うのが現実です。
うつ病を患っている社員の中には、無理に出社を続けようとするケースもあるでしょう。
このような場合、会社としてはどう対応すれば良いのでしょうか。
4つのポイントを解説します。
医師の診断書の提出を求める
社員がうつ病を患っている場合やその可能性がある場合、会社としてもっとも重要なのは、医師の診断書の提出を求めることです。
当該社員が出社できる状態なのか、また会社としてどう対応するのがベストなのか、適切な情報を把握できるのは専門医のみ。
できれば、休職の必要性やその期間について記載されている正式な書類を提出してもらいましょう。
最初に意見を求めるのは、社員の主治医となるでしょうが、社員側がうつ病であるという事実を隠そうとする可能性も考えなくてはいけません。
産業医や顧問医など、会社が指定した医師に診断してもらうことも大切です。
診断書が提出されたら、その情報をもとに、状況を確認しながら休職させるかどうかを決定しましょう。
就業規則に則り休職を命じる
うつ病を隠して出社しようとする社員を休ませるためには、就業規則に則った形で休職を命じましょう。
休職が会社からの命令であるという点を理解させることで、話をスムーズに進めていけます。
もし、就業規則に休職を命じるルールがないなら、できるだけ早く就業規則の改定を検討してみてください。
また、就業規則に則った形の休職命令であったとしても、従業員側が納得できていない場合、訴訟リスクを抱えてしまう可能性も。
休職を命令するに至った理由について明らかにし、その重要度について、事前にしっかりと判断しておきましょう。
休職制度を詳しく説明する
社員が休職する際には、会社の制度についてわかりやすく説明します。
具体的な項目は、以下の通りです。
- 休職期間について
- 休職期間中の給与について
- 傷病手当金について
- 社会保険料の負担について
- 休職期間中の連絡方法について
- 復職する際の手続きについて
休職期間や給与については、就業規則に基づいて説明しましょう。
うつ病で休職する場合、期間がわかりにくいという特徴があります。
会社としては、いつまで休職が認められるのかを、事前にはっきりさせておくことが大切です。
休職期間中に給与が支払われない場合、健康保険から傷病手当金を受給できる可能性も。
受給条件や手続き方法についても、詳しく案内しておきます。
給与が支払われない場合、社会保険料を給与から天引きできません。
どういった形で支払ってもらうことになるのか、会社のルールに基づいて説明しましょう。
同時に、休職期間中の連絡窓口も提示しておくと安心です。
休職中に診断書の提出義務がある場合、こちらの窓口を通じてやりとりします。
また、少し先の話にはなりますが、復職に関する説明も、この時点で一通り伝えておきましょう。
就業規則の内容はもちろん、復職については、医師の判断が重要なポイントとなります。
特に、会社側から休職命令を出す場合、「自分の判断だけでは復職できない」という点を明らかにしておくことが大切です。
口頭で伝えるだけではなく、文書にまとめて渡しておけば、後々のトラブルを防げるでしょう。
業務の引き継ぎを進める
休職による業務への影響を最小限にするためには、丁寧な引き継ぎが必要不可欠です。
しかし、引き継ぎのためでも、うつ病の社員を無理に働かせるのはおすすめできません。
できるだけスムーズに休職期間に入れるよう、会社としても、最大限に配慮してください。
適切な人員配置のもと、要点を押さえた引き継ぎができるよう、心掛けましょう。
うつ病の社員を辞めさせたい場合、解雇できるか
社員がうつ病を患い、「出社できたりできなかったりする状況が続いている」「休職期間が長くなっている」という場合、会社側としては「辞めさせたい」と思う機会もあるかもしれません。
しかし、うつ病を理由に従業員を解雇することは、非常に難しいのが現実です。
従業員側からの訴えにより裁判がスタートすれば、不当解雇であると認められる可能性も高いでしょう。
うつ病の社員を解雇したい場合、重要なのは正しい知識を身に付けた上で、適切な手順を踏むことです。
「【社労士監修】うつ病を理由に社員を解雇できるか?裁判となった判例や、会社がとるべき対応を徹底解説」のコラムでは、従業員の解雇について詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
まとめ
うつ病の社員に対して、会社としてどう対応するべきか、正しい接し方に悩む方は決して少なくありません。
誤った対応をとれば、症状が悪化してしまう可能性も。
会社側としては、安全配慮義務違反と判断されるリスクもあるでしょう。
今回紹介した内容も参考にしながら、会社としての対処法を検討してみてください。
うつ病を患った社員への接し方や対応は、医師の診断結果と就業規則によって決定されるのが一般的です。
「現在の就業規則では対応できない点がある」という場合には、将来を見据えた形で、規則の見直しを進めていきましょう。
専門家からのアドバイスを受けながら、話を進めていくのがおすすめです。
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